2012年8月19日日曜日

以 下 引 用

「内臓感覚の最も重要な表われは、リズムに結びついている。眠りや目覚め、消化や食欲の時間的な交替といった生理的な節奏がすべて、あらゆる活動を記す基糸をなしているのである。一般にこれらのリズムは、昼夜の交替や、気象や季節の交替といった、より大きい基糸に結びついている。そこから文字どおりの条件づけがなされ、日常的な作業における安定した基盤として働くが、その条件づけは、美に係わる行動において、その手段として人間の体が用いられる程度に応じてしか介入してこない。内臓が快適な状態というのは、活動の正常な条件を確立しなければ起こらない。苦痛や生理的に不十分な状態は、個人の美の領域をいちじるしく変えてしまうことがあるが、それもただ、広い意味での正常な活動に及ぼす苦痛などの結果によってである。
逆に、あらゆる文化において、習慣になっていない運動や、言語化の表出の重要な部分は、精神環境の急変するなかで、新たな状態を求めた結果として生じる。このことを考慮するなら、リズムの均衡が破られることが重要な役割をはたしているのは認めなければならない。例外的な儀式や、恍惚状態のなかでの啓示や入魂の行などにおいて、当事者はそのあいだじゅう、高揚された超自然の潜在力にみちたダンスや音による表出に身をゆだねるが、そこにうまく合わせるには、例外なしに、断食や不眠によって生理器官の慣れをうち破り、当事者を日常のリズム周期の外におくよう訓練するのである。最終的な結果は心霊的な昂奮であるにしても、出発点は内臓に係わる性格をもっている。記憶の変化は、有機体のいちばん深いところで始まるのでなければ実現しない。」

アンドレ・ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』、筑摩書房、2012年、445頁

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