2012年10月9日火曜日

7年越しの読書

『原初生命体としての人間』という本があります。"野口体操"を考案した、野口三千三氏の著書です。
野口氏の"からだ"についての考え、そしてそこから導き出される人間について、また生き方についての考え、それらを実現するために"からだ"を用いて"考える"ための野口体操について、氏が丁寧に選んだ言葉が綴られています。


大学に入学したての頃のことです。
とある教授に会いに行った際この本を紹介されたことを、今でもよく覚えています。
いわゆるこのような学術書の値段の高さに慄きながら(といっても文庫で千円くらい、今では全く高いと思えないけど!)、なんとなく読むべき本なのだろうと思いつつ渋々購入しました。
購入して頁をパラパラと捲ったものの、小説程度しか読んだ事のない当時の私には何が言われているのかもさっぱりで、そのまま本棚の肥やしになっていました。
そして事ある毎に、この本の存在は脳裏を過ぎり、今なら分かるのかな、と思いつつ改めて本を開いては頓挫する、ということをかれこれ3〜4回は繰り返しました。

そんなことをして、気付けばこの本を買って7年も経ってしまいました。

先日ふと改めて、この本はやっぱり理解しておかなければならないと思い立ち、意を決して、もう一度最初の頁を開いてみました。

まぁその結果、難なく読めるようになっていたのですよね。
別段難しいことも書いてないし、身体を扱う人間にとっては至極当たり前で、ただ私が大切にしなきゃいけないと思っていたことが、7年も掛かってやっとこさ自分の身体で考えてきたことが、使う言葉は違うけれどそっくりそのまま書いてありました。

野口"体操"といっているように、それは身体についての考え方の基礎です。私が7年も掛かって行ったり来たりしてたことも、結局まだ基礎の部分なのでした。
応用はここからです。


それにしてもこの本は、世に蔓延る如何なるハウツー本よりも、身体を以て生きるヒトとして考える基礎があると思います。
先だってノーベル賞を受賞した山中伸弥教授が開発したiPS細胞は、皮膚の細胞から作られると耳にしました。
この本に通じるものがあって驚くと同時に、下敷きにするとiPS細胞の生成の仕組みが不思議とすんなり頭に入って来ました。
初版は結構前で、かつどのような思想哲学も差し込まれないで書かれているので、少し古い考え方や偏った言葉遣いに首を捻る部分はあります、それでも一読の価値はあったと思えました。


そして私にとっては、7年前に出会って間もない教授が何故この本を勧めたのか、考えると面白いのです。
この本が必要になるであろう何かが私の発言(思考)に見え隠れしていて、それを読み取られていたことが恥ずかしく、それでもその頃からぶれることなく、いやそんな恰好良いものでもなくてむしろ同んなじようなことをずーっと考え続けているんだなと思い知らされました。

その教授は、今私がいる専攻(学部)の立ち上げに当初は関わったものの、いろいろと折り合いが付かず教授就任を蹴っていたそうです。笑
いつどこで、どのような人に出会うのかは全くもって不思議なものです。



読書は、本を開いた瞬間にまさに幕が開くような嬉しさがあります。何時だって何処でだって、本を読むことが出来るのはとても素敵なことです。
だけどそれ以上に、どの様な本にいつ出会うか、というのが読書の面白さだと思ったりします。
図書館や本屋に行って、未だ私の読んだことのない本が家よりも何倍も広いフロアに天井近くまで積み上げられているのを見るととても恐くなります。
だけどその本の山から抜き取った、なけなしのお金で手に入れた本は、とてもとても大切にしたいと思うのです。

0 件のコメント:

コメントを投稿